養老への旅
onion software/onitama 1997,2000
そこはもう伝説の地です。
かつて多くの人々が、この山奥に足を運んだらしいのです。
そんな不思議な地を目指して、私たちの旅が始まりました。
我々は滝を求めて、かの有名な「養老の滝」へとやって
きました。そこは太古の昔より伝わる不思議な伝説のあ
る場所。我々は大きな期待を胸に抱かずにはいられませ
んでした。
§
しかし、どうしたことでしょう。滝の近くにある
という駐車場には、ただの一台も車がありません。
このような伝説の場所を訪れる人は、あとを絶たない筈
なのに、何があったのでしょう。
§
我々は、近くにある土産物屋へと行くことにしました。
しかし、滝とはまったく関係のない土産物ばかりで、
我々はその寂しい店内と、あまりにやる気のない店主
の様子に長居することができませんでした。
§
しかし、我々の養老の滝に対する期待は、まだ心の中に
残っていました。伝説の滝…それこそが、我々にかつて
見たことのない素晴らしい世界を見せてくれる。
そう信じて、滝への道を進んでいきました。
そして、いよいよ伝説の養老の滝が間近に迫ってきました。
「あった! あれが養老の滝だ!」
誰かが叫びました。
§
§
ついに我々は養老の滝を発見しました。その雄大な姿は
遠くからでも、迫力ある流れを見せつけていました。
養老の滝は確かにそこにあったのです。
しかし、伝説は起こりそうにありませんでした。
ただ激しい水の流れが滝つぼに向かって打ちおろされているのです。
§
滝をぼう然と眺めていた我々は、やがてあることに気が
つきました。今までは滝に夢中でわからなかったのです
が、あたりが閑散としているのです。
それは、風情あふれる静寂とは違っていました。まるで、
人の生きている感覚がしない…そう、寂れと言える雰囲気だっ
たのです。滝を見る筈の滝見茶屋も、よく見ると荒れ果
てているようです。
§
我々は写真館の前へとやってきました。いや、それはも
う写真館と呼べる場所ではありませんでした。
「ここは伝説の場所なんかじゃない!」
誰かが思わず口走りましたが、その場にいた誰もが同じ
気持ちだったのです。我々は一刻も早く、この場所を去
らなければと感じていました。
§
我々は帰り道を探索していました。行きには目に入るこ
とのなかった茶屋があちこちにありました。
それらはみな営業していませんでした。
我々はそこで衝撃の事実が書かれた看板を見つけたのです。
養老の滝の伝説が…。養老の滝に酒が流れていて病気が
直ったという伝説は、実は病気の父親を持ちながら、働
きもせず酒を飲んでばかりいた放蕩息子が、たまたま養
老の滝へ行ったら酒が出ていたということらしいのです。
我々の中で、感動の伝説が堕落した息子の夢物語という
位置にまでひきずり降ろされたのは、この時でした。
§
養老の滝に失望した我々には、この山を下りる力は残っていませんでした。
その時です。我々は道なりに置かれている看板を発見しました。
魅惑的なイラストに彩られたそのメッセージボードには、
この山にリフトが存在することを物語っていました。我々はすぐに、
このリフトに乗り山を下りることを決定しました。
しかし、これが後に養老の滝の新たなる事実を知るきっかけだったのです。
§
そして我々はリフトがあるという乗り場へ辿り着きました。
その、ものものしい建物へは長い階段を使って登っていかなければなりませんでした。
やがて、我々はその建物に掲げられたもう1つの看板、「ゲーム場」という
文字に目をやりました。「ゲーム場」とは何でしょう。
このような小さな建物、ましてリフトを乗る場所になぜ…
そう思いながら階段を一歩づつ登っていったのです。
§
ついにリフト乗り場へとやってきました。そこは確かに
営業しているようでしたが、切符売り場に人の姿は見え
ませんでした。そうしているうちに、我々は切符売り場
のすぐ隣にうす暗い小さな空間があるのを発見しました。
我々は、恐る恐るその場所へと足を踏みいれてみました。
なぜか、足がそちらに向かっていたのです。
§
暗い部屋に目が慣れてきた我々は、驚きの声をあげました。
「ここはゲーム場だ!」
そこは確かにゲーム場でした。そして、その小さな空間
に置かれていたゲームはみな、現在では見ることのでき
ない遠い昔の機械だったのです。
その懐かしくも時間が止まったかのような恐ろしいな光
景に、我々は動揺を隠すことができませんでした。
§
我々は頭が混乱してどうしていいのか解らず、思わず古
いゲームを始めてしまいました。この古いインベーダー
ゲームも当然のように100円硬貨を要求していました。
部屋の奥には、ビデオゲーム以前のメカニカルなゲーム
機の姿も見られます。我々はこの場を離れることが、で
きませんでした。
§
どれだけの時間が経ったでしょうか。やがてその時間を
遮るように一人の男が現れました。その男こそが、この
リフト乗り場の係員だったのです。男は我々に、
「そっちのゲームは動かないんょー」
と声を掛けてきました。そして、我々はこの養老の滝に
つながるリフトで長い時間係員をしている男の話に耳を
傾けたのです。
§
我々はついにリフトに乗り、養老の滝を後にすることに
成功しました。リフトに乗る我々の心の中には、リフト
乗り場の係員の言葉が響いていました。
−かつてこのゲーム場には人がたくさん来ていたと。
19年前の最新ゲームだったインベーダーを入れた頃は
養老の滝も観光客で賑わっていたのです。しかしやがて
人の波は途絶え新しいゲームが入ることはなく時間が過
ぎ去っていったのだと。
養老の滝。そこは伝説に彩られた虚無感が漂う終わりの
ない空間。しかし、そこで働き続ける係員の男こそが、
本当に大切なものが何かを我々に教えてくれているのか
もしれない。ありがとう、おじさん。
§
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